5.5組に1組が不妊に悩むと言われ、2018年に体外受精で生まれた子どもは過去最多の5万6979人(日本産科婦人科学会公表データ)と報告されている今、妊娠を望む世代にとって決して不妊は他人事ではありません。
しかし、多くの人はまさか自分が不妊で悩むとは思っていません。
ほとんどの人が自然に授かるだろうと思っているのです。
しかし、実は自分たちが思っているほど自然に妊娠できる確率は高くありません。
特に年齢とともに自然に妊娠できる確率は下がってきます。
こういう話をすると、高度生殖医療の力を借りれば35歳を過ぎても、40歳を過ぎても妊娠可能だと思っている人が以前ほどではないにしてもまだまだいらっしゃいます。
残念ながら体外受精や顕微授精などの高度生殖医療の力を借りても、年齢とともに妊娠率は低下していきます。
そして、実は30代の妊娠率も思っているほど高くはないのです。
どれだけ医療技術が進歩しても生殖年齢には限りがあり、20代が生殖適齢期であることには変わりはありません。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
年齢とともに卵子は減少し、老化していく
年齢とともに妊娠率が低下していく要因の一つに卵子の老化があります。
「卵子の老化は生まれた時から始まる!知らずに後悔しないために知っておいた方が良いこと」の記事でもお伝えしましたが、卵子の数は胎児期の20週の頃が一番多いと言われています。
一番多い時期で600万個~700万個ほどの卵子を卵巣内に持っていますが、生まれてくるときには200万個まで減少します。
その後も卵子は減り続け、月経がはじまる思春期頃には30万個~50万個まで減少し、その後32~35歳頃から急激に減少し、37歳ぐらいには2万個まで減ることになります。最終的に閉経時には1000個ほどになると言われています。
卵子は、胎児期に数が決まっており、その後卵子が新しく作られたり増加する事はなく、年齢を重ねるのと一緒に歳を重ねていき、数も減少していきます。
その為、若くて数の多い20代がやはり妊娠率が高くなります。
精子も年齢とともに老化していく

そして、精子の老化も妊娠率を低下させる要因の一つです。
年齢が影響するのは卵子だけだと思っている人も実は少なくありません。
男性は射精が出来ていればいつまでたっても妊孕力は衰えないものだと思っている男性もいます。
しかし年齢幅はありますが、男性も35歳から45歳を過ぎたあたりから妊孕力は衰えてくると言う研究結果もあります。
男性の場合も、いつまでも妊孕力が高いわけではないのです。
その為、夫婦で子供を望むのであればできるだけ早いタイミングで妊活を始めたり、不妊クリニックで検査を受けるなど行動に移す必要があります。
男性の妊娠力について詳しくは「男性もいつまでも妊娠できる訳じゃない!意外と知らない、精子の老化」の記事に書いていますので読んでみてください。
卵子の老化は2012年にメディアで取り上げられてから、広く知れ渡ってきたように感じますが、精子の老化はまだまだ知られていません。
その為、どうしても妊娠率の話になると女性の年齢ばかりがピックアップされがちですが、男性の年齢も重要になってきます。
年齢別の自然妊娠確率は?
こちらは海外のデータ(M.Sara Rosenthal.The Fertility Sourcebook.Third Edition より)になりますが、1年間避妊しないで性交渉をした場合の年代別妊娠確率は以下のように報告されています。
20歳~24歳 86%
25歳~29歳 78%
30歳~34歳 63%
35歳~39歳 52%
40歳~44歳 36%
45歳~49歳 5%
50歳以上 0%
また、1周期当たりの妊娠率に関しては、
25歳 25%~30%
30歳 25%~30%
35歳 18%
40歳 5%
45歳 1%
と言われています。
この1周期当たりの妊娠率の数値はよく使われているので見かけたことがある人もいるかもしれません。これは、1回の夫婦生活あたりではなく、排卵1周期あたりの妊娠率です。
ちなみに年間の妊娠率のデータも1周期当たりの妊娠率のデータも男性の年齢は考慮されていません。
ただし、最初に述べたように男性も加齢とともに妊孕力が低下することが分かってきていますので、男性が35歳~45歳以上の場合は、それらの年齢も考慮して妊娠率を考える必要が出てきます。
例え女性が20代前半であっても男性が高齢であれば当然妊娠率は下がることになります。
自然に妊娠できる確率は思っているほど高くない

この妊娠率をみて、みなさんはどのように感じましたか?
40歳以上の場合、1周期当たりの妊娠率は5%しかありませんが、1年を通すと36%の人は妊娠します。
「妊娠率5%」と聞くと低く感じますが、「36%」と聞くとそこまでは低く感じないという人もいるかもしれません。
ただし、逆を見れば1年妊活を続けても7割近い人は妊娠に至らないことになります。
よく、健康な男女が避妊をせずに定期的に性交渉していた場合、1年で8割のカップルが妊娠すると言われていますが、それはあくまでも20代の場合の可能性であることが上の数値からも読み取れるかと思います。
30歳を超えると、1年で妊娠できるカップルの割合は63%、約1/3のカップルで子供を授かっていないという事になります。
35歳を超えると、1年で妊娠できるカップルはさらに減って、半分ほどしか子供を授かれていないことになります。
どうでしょうか?
この妊娠確率を多いと感じますか?少ないと感じますか?
30代前半であれば、1年間、避妊をせずに定期的に性交渉をしていれば8割近いカップルが妊娠に至ると思っていた人も少なくないのではないでしょうか?
「妊娠率の低下は35歳を過ぎてから」漠然とそんな風に思っていた人もいたかもしれません。
多くの人は、自分は妊娠できる3割、5割、6割の方に入るだろうと根拠なく思っています。
まさか自分たちが妊娠に悩むなんて最初は思ってもいないのです。
その為、なかなか妊娠に至らなくても、もう少し頑張れば自然妊娠できるはず…後3か月、後半年と自然妊娠の希望や期待を先に繋ぎがちです。
しかしながら、そうしているうちにもさらに年齢を重ね、より妊娠しにくくなっていきます。
「自然妊娠が難しくても、人工授精や体外受精・顕微授精をすれば、30代後半でも大丈夫。」と考える人もいますが、残念ながらそれらの一般不妊治療・高度生殖医療の技術を用いても、妊娠できる確率は年齢とともに低下していきます。
だからこそ、30歳を過ぎればある程度のタイミングで不妊クリニックを受診してお二人で検査を受けることが大切になってきます。
一般的な不妊の定義は“1年”ですが、32歳を過ぎれば、1年待たずに不妊クリニックを受診し一般不妊治療から開始するのも選択肢の一つです。
また、35歳を過ぎている場合は、自己流妊活は半年ほどにしておいて、半年が過ぎれば出来るだけ早い段階で不妊クリニックを受診して検査を受けることをお勧めします。
妊活を始めるタイミングで何か妊娠に影響を及ぼすことはないか、先に検査だけ受けておくのも一つの方法です。
30歳以上の自然妊娠の割合は実は思っているほど高くはないのです。
だからこそ、はやめ、はやめに行動に移していく事が大切になってきます。
高齢妊娠・出産が話題になっても安心してはいけない理由
とはいえ、メディア等で40歳以上の芸能人の妊娠の話が話題になったり、周りで40歳以上の知人が自然妊娠で赤ちゃんを授かったという話を聞くと、自分達も自然妊娠が可能なのではないかと思いがちです。
しかし、話題になるのは妊娠・出産した人だけです。
妊活や不妊治療を諦めた人のことをメディアは話題にしませんし、周りにそのような友人や知人がいてもわざわざ話題にはしません。
妊娠や出産が話題になるのはほんのごく一部でしかないのです。
その話題の陰で多くの人が、妊娠を諦めているのが現実です。
40歳~44歳の人の1年間の妊娠率は36%ですが、44歳でこれだけの妊娠率があるわけではありません。43歳を過ぎれば、どちからというと“45歳~49歳 5%”の数値に近くなってくるでしょう。
また、この数値には流産率は加味されていません。
実際に妊娠を継続し、出産までたどり着く人はさらにこの数値より少なくなります。
30歳以上の自然妊娠率はあまり話題にはなりませんが、実は私たちが思っているほど高くはないのが現状です。
そして体外受精の成績も33歳を過ぎたあたりから妊娠率が下がり始めます。
だからこそ、30歳を過ぎたら自然妊娠に必要以上に拘らず、出来るだけ早めに不妊クリニックを受診したり、治療のステップアップを進めるようにしてみてください。


