「体外受精と顕微授精は何が違うの?」と思っている方もいるかもしれません。この記事では体外受精と顕微授精の違いや、顕微授精の流れ、顕微授精をする際に決めなければならない選択肢について解説していきます。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
顕微授精と体外受精の違い

体外受精と顕微授精の違いが今一つよくわからないと言う人も、実は少なくありません。
体外受精とは、体外に取り出した卵子に精子をふりかけて受精させる方法(ふりかけ法)を言います。
精子も卵子も外には取り出していますが、受精に関しては精子と卵子の力に委ねられます。
その為、一定数以上の精子の数が必要になります。
一方、顕微授精は体外受精とは違い、授精させるところまでを培養士が行います。
顕微授精は、正しくは卵細胞室内精子注入法(ICSI=イクシー)と呼ばれ、言葉のごとく卵細胞内に選ばれた1匹の精子を培養士が専用の装置を使って注入します。
顕微授精の流れ
顕微授精は倒立顕微鏡という顕微鏡を使って行われます。
顕微鏡には精子を注入するためのピペットと卵子を把持するためのピペットがついています。
顕微授精は以下のような流れで行われます。
①顕微鏡で運動精子を確認し精子を吸引する
②精子を吸引する際に精子を不動化(動かなく)する
③軽く陰圧をかけて卵子を把持する
④卵子染色体をピペットで損傷させないように卵子の位置を調整する
⑤卵子細胞膜と精子を吸引したピペット先端のピントをあわせて、ピペットの先端を卵子の透明帯に接着させて、精子をピペット先端まで移動させる
⑥ゆっくりとピペットを刺入して、少しずつ陰圧をかけながら卵子の細胞膜を穿破する
⑦圧力をコントロールしながらゆっくりと精子を注入する
⑧精子が先端から出ると同時にピペットをゆっくりと引き抜き抜けた穴を閉じる
精子を選ぶ、精子を不動化(動かなく)させる、卵子の位置を決める、精子の注入からピペットを抜くところまで、多くの工程で培養士の技術力に左右されることになります。
その為、顕微授精においては培養士の技術力が、受精率や卵子そのものの生存率に大きく影響してくることになります。
顕微授精が必要な場合とは?

顕微授精が必要となるのは、以下のような場合です。
・重症乏精子症(精子がほとんどいない場合)
・重症精子無力症*
・無精子症で精巣内精子回収法で精子が回収された時
*精子無力症とは…
精子の運動率が著しく低い場合を指します。一般的には運動率40%以下の場合を精子無力症と言います。
精子数が5000万/mL以上、運動率80%以上の場合、多くは通常の体外受精が行われます。
ただし凍結精子を使う場合は、時間ととともに精子の運動状態が低下するため、顕微授精を選択する必要が出てきます。
それ以外にも、精子の運動性が良好であるにもかかわらず、通常の体外受精で受精を認められない場合は、顕微授精を選択することになります。
また、女性が40歳以上の場合は、卵子の数が少なかったり、質そのものが低下し受精能力が落ちていることも考えられるため、最初から顕微授精を提案されることも少なくありません。
若しくは、採卵できた卵子の半分を通常の体外受精、残りを顕微授精とするクリニックもあります。
精子に顕微授精を必要とする要因がなければ、体外受精を行うか顕微授精を行うかは、クリニックの方針によって様々です。
①最初はすべて通常の体外受精を行う
②最初から通常の体外受精と顕微授精を混ぜて行う
③年齢や採卵できた個数に応じて受精方法を選択
④受精しなかった場合にレスキューICSIを行う
自分達がどのような受精方法を選びたいのか、体外受精説明会等で話を聞きながら選択していく必要があります。
また、もし受精に不安がある場合はレスキューICSIが可能なクリニックを選ぶというのも一つの方法です。
顕微授精が行えるクリニックはどこ?
実は体外受精を行っているクリニックであれば、どこでも顕微授精が行えるわけではありません。
ほとんどのクリニックでは体外受精と顕微授精と両方の治療を行っていますが、まれに体外受精は行っているが、顕微授精は行っていないというクリニックもあります。
そしてクリニックを選ぶ際は、基本的には厚生労働省が指定した医療機関を選ぶようにしましょう。厚生労働省が指定していない医療機関でも高度生殖医療を提供しているクリニックはありますが、助成金が受けられないなどデメリットがあります。
また、体外受精の指定医療機関であっても顕微授精の指定医療機関には認定されていないということもあるので注意が必要です。
顕微授精が必要かどうかは、実際に治療を進めてみないとわかりません。最初の検査では精子には問題がなく、通常の体外受精で行けるだろうと思っていても様々な理由から顕微授精が必要になることもあります。
その為体外受精のクリニックを選ぶ際は、可能な限り顕微授精が出来るリニックを最初から選ぶことをお勧めします。
顕微授精の選択肢①ピエゾICSI
顕微授精の説明で“ピエゾICSI”という顕微授精の方法について聞いたことがある人もいるかもしれません。
ピエゾICSIとは、精子を注入させるためのピペットに微動な慣性力を与えることによって、卵子の透明帯を変形させることなく通過し、容易に卵子内に精子を注入することが出来る装置になります。
従来の顕微授精の方法では、陰圧をかけて細胞質を破り精子を注入する操作になるので、卵子に余計な負担をかけたり、精子注入と同時に余分なものを注入し、その結果受精率が低下するリスクがあるのではないかと言われていました。
ピエゾICSIを用いることでこれらのリスクを低下させることが出来るので、最近はピエゾICSIを導入するクリニックも増えてきています。
クリニックによって、ピエゾICSIはオプション料金が必要な場合もあります。
体外受精説明会などで、従来の顕微授精とピエゾICSIの違いや、メリット・デメリットを確認したうえで、ピエゾICSIを選ぶかどうかを決めるのも一つの方法です。
ただ、ピエゾICSIの装置を導入していないクリニックもありますので、ピエゾICSIを考えている場合は、クリニックを選ぶ際にその点も確認しておくといいかと思います。
顕微授精の選択肢②レスキューICSI

レスキューICSIとは、通常の体外受精を行った数時間後に受精を確認できない場合に、顕微授精に切り替えることを言います。
体外受精で精子と卵子が1個も受精しなかった場合や、採卵できた卵子の数が少ない場合などは、レスキューICSIを行うことによって採卵からの再スタートにならないようにするため、患者負担は軽減します。
ただし一度は通常の体外受精を行い時間が経過した卵子の為、最初から顕微授精を行った卵子に比べると質が低下している可能性もあります。
その為、レスキューICSIは行わずに受精しなかった卵子を破棄し、再度採卵から行うクリニックもあります。
レスキューICSIを行うか、行わないかはクリニックの方針によっても変わってきます。
後から、「思っていたのと違う…」とならないためにも、事前にしっかりと調べて、納得いくまで医師や培養士から話を聞くことが大切になってきます。
いかかでしたでしょうか?
体外受精にステップアップする際には、顕微授精という選択肢や顕微授精の中でもレスキューICSIやピエゾICSIという選択肢について考えておく必要があります。
体外受精を進めていく中で、「それは何?」とならなくて良いように、あらかじめ必要な情報を得て治療を進めていくことをお勧めします。
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