最近は‟予防歯科“という言葉が一般的になってきましたが、みなさん定期的に歯科クリニックで歯や口腔内の状態のチェックはされていますか?
歯科クリニックは、歯や口腔内の調子が悪くなったらいくもの…と思っている人も少なくないかもしれません。
しかし、歯に痛みを感じてからや、歯肉からの出血がひどくなった状態は、虫歯や歯肉炎がかなり進行した状態になっている可能性もあります。
かなり進行した状態まで放置しておくと完治まで時間がかかる場合もあります。
また、この状態に妊娠前に気づければいいですが、妊娠中に気がついた場合、治療が思うように進まなかったり、歯周病が胎児に影響を及ぼすこともあります。
この記事では、なぜ妊娠前の歯科検診が必要なのか?をお伝えしていきたいと思います。
この記事の監修医師
産婦人科専門医 / 生殖医学会生殖専門医
順天堂大学医学部産婦人科客員准教授
順天堂大学医学部卒業。順天堂大学産婦人科先任准教授(助教授)、順天堂大学医学部附属浦安病院リプロダクションセンター長を歴任。世界初となる公費助成の「卵子凍結保存プロジェクト(千葉県浦安市)」の責任者。2019年メディカルパーク横浜を開院。
目次
なぜ‟予防歯科“が注目されるようになってきたのか?
冒頭にも書きましたが、歯科医院といえば、学校の歯科検診で虫歯を指摘されてから行く場所という認識の人も少なくないかと思います。
また、歯科医院特有のにおいや音が苦手で、予防歯科の重要性は知ってはいるものの、ついつい足が向かないという人もいるかもしれません。
予防歯科は生涯を通じて健康な歯を保つために、日本でも2012年に厚生労働省から「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」が報告されるなど、注目が集まっている分野です。
歯を失うと生活の質が大きく下がると言われており、生涯自分の歯で食事が出来るようにと、歯や口腔内の状態を管理することが大切と言われています。
その為には歯が生えたときから管理していくことが必要になってきます。
2歳で母親に虫歯がある場合とない場合を比較した報告では、母親に虫歯がある場合は、75.9%の子供に虫歯が見られ、母親に虫歯のない子供で虫歯がみられたのは24.1%だったという報告があります。
赤ちゃん自身はむし歯になる細菌は生まれた時は持っていません。しかしむし歯になる細菌を持っている大人と箸やスプーンを使いまわしたり、濃いスキンシップをとることで、そのむし歯の原因菌が子供の口腔内に移行してしまう可能性があります。
産まれてきた子供の歯の状態を管理するにはまずは大人がしっかりと歯科検診を受けることが大切になってきます。
そして、生まれてきた子供の歯の健康のために夫も含めて家族みんなが一度歯科クリニックでチェックを受けるようにしましょう。
妊娠前(妊活中)の歯科検診はなぜ必要?

妊娠前に歯科検診をお勧めする理由として
・歯周病が妊娠に与える影響
・妊娠中は歯医者に通いにくい
・産後は自分のことは後回しになりがち
この3点があります。
この3点に関して説明していきたいと思います。
歯周病が妊娠に与える影響とは?
一般的に妊娠すると歯肉炎にかかりやすくなると言われています。
このように言われる原因として、女性ホルモンが大きく関わっていると言われ、その中でも特にエストロゲンが大きく関与しています。
エストロゲンは妊娠中に増加することが知られており、妊娠後期まで増加し続けます。
このエストロゲンが特定の歯周病原菌の増殖を促進するため、エストロゲンの増加とともに妊娠性歯肉炎にかかりやすくなってしまいます。
ただ、基本的には歯垢がない口腔内では歯肉炎は起こりにくく、起こっても軽度ですみます。
妊娠中の歯肉炎を予防するためにも、妊娠前に歯垢を歯科クリニックで綺麗に除去してもらうことが大切です。
また、最近は妊娠している女性が歯周病に罹患していると、早産や低体重児の出生の危険性が高くなることがわかってきています。
赤ちゃんをリスクにさらさないためにも妊娠前に一度、歯科クリニックで口腔内の状態をチェックしてもらいましょう。
自分が思ってもみていないところに歯垢は溜まりがちです。
また、奥歯や細かなところまで歯垢を取り除くのは家庭での歯磨きだけでは難しく、定期的に歯科クリニックで検診をかねて歯垢や汚れを取り除いてもらうほうが確実です。
妊娠中に歯医者に通いにくいのはなぜ?
妊活中や不妊治療中はなかなか子供を授かった後のことは考えられないという人も少なくありません。
歯科検診も妊娠してからではダメなのかと思われる方もいるかもしれません。
しかし、妊娠中は歯科治療が受けられる時期が限られています。
一般的には妊娠中期と呼ばれる5~7か月に治療が行われることになります。
痛みがひどいなど応急的な処置は妊娠初期でも行うことが可能ですが、本格的な治療は妊娠中期まで待つ必要があります。
また、つわりの程度は様々ですが、妊娠初期はつわりで歯医者に通うことが出来ないだけではなく、歯磨きそのものすら無理な場合があります。
その為、妊娠初期に歯肉炎や歯周病が悪化してしまうこともあります。
だからこそ、妊娠前に口腔内をチェックし必要な治療をしっかりと行っておくことが必要です。
また、妊娠後期になると、今度はお腹が大きくなり仰向けの体勢が辛くなってきます。歯科治療は、場合によっては30分以上仰向けになる必要もあり、妊娠後期になるとその状態で治療を受けるのは厳しくなってきます。
その為、妊娠後期も基本的には応急的な処置になり、しっかり治療できるのは産後になります。
出産後に歯医者に通うことはほとんど不可能?
産後に歯科クリニックに頻繁に通うのはなかなか至難の業です。
「1回や2回の通院で終了する」場合や「10分程度の診察で終了」などの場合は、なんとかなるかもしれませんが、歯科クリニックは長ければ何か月も通院しなければなりません。
また、治療自体も30分以上かかる場合も多く、その間赤ちゃんに触れることは難しくなり、赤ちゃんを連れての通院は難しいと考えておいたほうがいいでしょう。
また、母乳のみで赤ちゃんを育てている場合は、たとえ自宅で赤ちゃんをみてくれる家族がいても、赤ちゃんをおいて長時間出かけることは最初のうちは難しくなります。
子供が少し大きくなっても、子供を連れて歯科クリニックに通うのも大変です。
最近は子供の遊ぶスペースや保育士が常駐している歯科クリニックも増えてきましたが、必ずしも近くにそのようなクリニックがあるわけではありません。
また、先述したように歯科クリニックの通院は1度や2度では済みません。
そのたびに預け先を探してとなると、通院そのものが面倒になり後回しになりがちです。
だからこそ、妊娠前に通院しやすいタイミングで歯科検診を受けておくことをお勧めします。
妊娠中以外にも!歯周病が身体に及ぼす影響

実は妊娠時以外にも歯周病が身体に及ぼす様々な影響がわかってきています。
歯周病は脳血管疾患や心疾患とも大きな関連があるのではないかと言われるようになってきました。
脳梗塞や心筋梗塞の大きな原因の一つとして動脈硬化があげられます。
動脈硬化は食習慣の乱れや不規則な生活、ストレスなど主に生活習慣が原因として挙げられていましたが、最近は歯周病原因菌も動脈硬化を引き起こす要因の一つではないかと考えられるようになってきました。
先述しましたように、妊娠中や産後は歯科クリニックに頻繁に通うことが難しい時期があります。
歯の健康管理は妊娠時だけではなく、その後の一生涯の健康管理にも繋がっていきます。
子供は出産して終わりではありません。
その後も長い期間の子育てがあります。
脳梗塞や心筋梗塞は命にかかわる疾患です。命が助かっても後遺症と一生つきあっていかなければならない可能性もあります。
産後も健康に過ごすためにも、妊娠前から歯科検診をしっかりと受けましょう。
気になる症状は早めにチェックを
妊娠前の歯科検診の必要性について述べてきましたが、みなさんの口腔内や歯の状態はどうでしょうか?
虫歯は特に痛みがなくても進行している場合があります。
親しらずがうずいたり、歯肉が腫れて出血を起こしたりしていませんか?
歯石や歯垢の付着が気になる箇所がある人もいるかもしれませんね。
学生時代の歯科検診以降、歯科クリニックに行っていないという人もいるかもしれません。
ぜひ、一度妊活中に歯のメンテナンスを行っておくことをお勧めします。


